まーぶるコラム 第7回
そろそろ、コートを着ていると暑くなってきましたね。道を歩いていると、ぽつぽつと桜も咲き始め、少しずつですが春を感じる季節となってきました。
さて。今回は「契約」というのをテーマにお話したいと思います。最近は、この福祉業界はもちろん、何事も「契約書」を交わす社会になっています。この時期、新生活を迎えて賃貸契約を行ったり、カードの契約を行ったり。雇用契約なんていうのもありますよね。
契約という行為は、民法に規定された法律行為です。でも、私たちは日ごろそんな意識なく、契約を行っています。
例えば。スーパーでの買い物は、売買契約に当たります。具体的に説明しましょう。ピーマン1袋98円で売っていたとします。「98円だったら安いから買って帰ろう」という買う側の意思表示。そして、「98円だったら、○パーセントの利益が見込めるから、この値段にしよう」という売る側の意思表示がここで合致しました。
そうすると、買う側はそれを持ってレジに行きます。98円を支払って、その商品を手に入れます。売る側は、その商品を消費者に渡す対価として98円を得ることとなります。そして、この売買契約を証明するものが、日ごろもらっている「レシート」となるわけです。
契約を行う上でのポイントは、お互いの合意によって契約が成立し、その結果その当事者に債権・債務が発生する。そして、その債権・債務が実現されなければ、裁判所の権限によってそれを実現することとなるわけです。
では、地域で生活しているすべての人がこのことを理解した上で契約できるでしょうか?
当然のことながら、小さな子どもさんにはできません。そして、認知症の方は状態によっては難しい場面もあります。また、知的障がいのある方でも程度や、説明の仕方によっては理解できないこともあります。
同居している家族が行えばいいのかもしれませんが、常に家にいるわけでもなく、またお一人暮らしの方もおられます。そういった方々が、地域で生活する上でどうしていけばいいのでしょうか。
地域には、「地域福祉権利擁護事業(地域により名称は異なります)」というものがあります。これは、サービス利用の手続きや金銭管理について、わからない部分への情報提供や一人では不安な方への相談・助言を行ってくれるもので、社会福祉協議会が行っています。
しかし、この事業を利用することに対して、理解でき、援助開始の契約ができる方でなければ利用できないとされています。
では、それも難しい人はどうすればいいのでしょうか。
「成年後見制度」というのを御存じでしょうか?これは、障がい等により、判断する力が十分でない場合に、家庭裁判所によって選ばれた人がその人を保護し、支援する制度です。
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つがあり、さらに「法定後見制度」は「後見」「補佐」「補助」の3つに分かれています。
「任意後見制度」とは、十分な判断能力のあるうちに、あらかじめ自分で選んでおいた人に、自分の生活や療養、財産の管理に関する事務を行ってもらう「代理権」を与えておいて、障がい等によって、判断能力が低下した場合に、本人に代わってその事務を行ってもらう。というもの。
そして、「法定後見制度」とは、その人の判断能力に応じて、「後見」「補佐」「補助」の3つの中から適切な制度を選び、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為を行ったり、不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人の利益等を保護するというものです。
しかし、この成年後見制度にはメリットもありますが、デメリットもあり、成年後見制度を利用すると、選挙権がなくなってしまいます。このことに関しては、3月に選挙権喪失は違憲であるという判決が裁判所で下されました。
すべての人が、同じ程度判断能力を欠いている状態ではなく、成年後見制度を利用したから、一律に選挙権を奪うことは不当であるとの判決だったそうです。
また、一部の職業に就くことができなくなるといった制限もあります。
どんな事にも、いい面もあれば悪い面もあります。成年後見制度には、財産は守られる可能性はありますが、生活の時々で他の人の許可が必要となってきます。
また、日本は家族であれば多少お金に関しては緩いところもありますが、そうはいきません。いつ、本人のどんな利益のために、どの程度そのお金を使ったのか、家族が後見人になっても詳しく出さなければなりません。
それが、本人の利益になっていないと判断されれば、「詐欺」ということで裁判が行われ、罪に問われるということになりかねません。
また、成年後見制度は費用が発生します。申請のための費用と、後見人を弁護士などにお願いすると、その分の報酬も発生してきます。
その人が、不当な契約から身を守るための制度はありますが、あまり知られていなかったり、費用がかかったりして、悩んでしまう人もおられるようです。
もしもの時のための、制度が利用しにくいというのは非常に残念ですね。ただ、そういった制度があるということを知っているのと知らないのとでは、今後生活していく上で全くと言っていいほど変わってきます。
「今は必要ないけれど…」という方でも、頭の片隅に置いておいていただいて、ご家族やあなた自身が、もしこういったことが必要になった時に使っていただければと思います。
文責:大橋奈緒子