まーぶるコラム 第2回
前回予告していたように、今回のテーマも問題行動。
でも、今回は前回と少し様子が違うようですね・・・。
今日もA君はヘルパーさんと外出です。今日のA君はとっても元気。久しぶりの外出で、しかもA君の大好きなヘルパーさん。行先も当然、A君の大好きな場所です。
しかし、ちょっといつもより元気すぎたようで・・・。
危険がないよう、安全に気をつけながら支援を進めるも、A君の元気さはとても危険なくらいでした。
大好きな車を近くで見たいと、走り出そうとしたり、ヘルパーの周りをくるくる回りながら歩いてみたり。本当に楽しみで仕方がなく、その楽しさを体で十分に表現するのですが、ちょっとやりすぎてしまったようです。
いつもはやさしいヘルパーさんも、さすがに危険と判断。
「A君。危ないから、走ったらダメ!」と少しきつめに怒りました。
そうするとA君は、大声を上げながら走っていくではありませんか。
もちろん、急いで追いかけ怪我をすることはなかったのですが、A君はヘルパーを拒否。楽しいはずの外出が、支援すら成り立たなくなってしまいました。
ヘルパーは、帰って今回の状況を報告。再度、彼の情報を確認すると『否定の言葉は厳禁』と書いてありました。
みなさまも、これでわかりましたよね?A君は「ダメ」の一言に反応したようです。
彼らは、たくさんの感情を持っています。ただ、言葉にして表わすことが苦手な人もいるようです。
特に日本語にはいろいろな表現がありますよね。私たちでも、時々適切な表現がわからなくなる時ってないですか?みなさん、苦手なことをやれ!と言われて混乱したり、わからなくなったりしませんか?さらに言うと、普段の何でもないことよりも「楽しい」「怖い」など感情が伴うことの記憶って強く残りませんか?
この「ダメ」で、A君が過去にとっても怖い体験をしていたら、その時のことを思い出して逃げ出したくなるのは当然ですよね?さらに、その怖い感情を上手に伝えられなければ、もう逃げてでも伝えるしかなかったのかもしれませんね。
今回のこのお話は、人の記憶に関するお話です。
このように、感情の伴う記憶をエピソード記憶と言います。今の時期なら「冬休みに、家族でスキーに行ってとっても楽しかった。」とか、「雪が降って、道が凍り、タイヤが滑って怖い思いをした」とか。「記憶」と一言で言っても、実はたくさんの種類の記憶があります。短期記憶や長期記憶、手続き記憶やエピソード記憶、意味記憶などなど…。
細かく見ていくと、とても説明しきれるものではありませんので、簡単に。電話がつながるまで覚えていた電話番号。つながると忘れちゃったとか。メモをとるまで覚えていた相手の名前を、メモを見ないと思いだせないとか。短期記憶とは、その瞬間から数秒~最大1・2週間は覚えていられるが、すぐに忘れてしまいます。
でも、大事な話や興味のある話は、何度も復唱したりして、数日経ってもしっかり覚えていたりしますよね?これが長期記憶です。エピソード記憶は、個人的体験からなる記憶となり、同じ日の同じ事柄でも、このエピソード記憶には個人差があります。
そして、みなさん自転車乗れますよね?車の運転できますよね?一般的に「体で覚える」こと。これを、手続き記憶と言います。「1+1=2」や、「リンゴは赤色」など、一般常識とされていることに関する記憶を意味記憶と言います。
以上のことを簡単にまとめると、「2週間前に、学校の図書館で心理学のテスト勉強をした」<エピソード記憶>「記憶には、短期記憶と長期記憶があり、さらに、手続き記憶やエピソード記憶、意味的記憶があった」<意味記憶><長期記憶>「でも、教科書の何ページに書いてあったか忘れてしまった」<短期記憶>なんて感じになるのではないでしょうか。
記憶は、頭の中の引き出しだと思っていただければわかりやすいのではないかと思います。頭に入ってきた情報を、必要なものは引き出しにしまい、必要ないものは捨てて(忘れて)しまう。しまっておいた情報は、必要な時に取り出してくる。しかし、しばらくしまっておくとだんだん奥へ行くので取り出しにくくなって…久々に出してあげると、ちょっとずつ関連する事柄が思い出すことができる。
人の記憶の仕組みは、こんな感じになっているようです。しかし、思い出したくなくても思い出してしまうことがありますよね?
たとえば、以前怖い思いをした時と同じ状況になった場合、またあの怖いことが繰り返されるのではないだろうか…。こういった状況が、閉所恐怖症や高所恐怖症、心的外傷後ストレス(PTSD)といった疾患につながるのでしょうね。
さて。先ほどのA君に戻りますが。こう考えた場合、A君が飛び出した原因は…以前怒られたことによって「恐怖」を味わったA君。そのために「怒る=怖い」という式が彼の記憶にインプットされてしまった。そして、怒られるということに強いストレスを感じ、それをうまく伝えることができず飛び出しという行動へと変化したのかもしれませんね。
こんなお話があることを御存じでしょうか。
ある赤ちゃんに白いネズミを見せました。赤ちゃんは、白いねずみが怖いわけではないので、白いネズミに近づいて触ろうとします。しかし、その白いネズミに触れようとした瞬間、赤ちゃんの後ろで大きな音を出しました。すると、その赤ちゃんは突然の大きな音でびっくり。また、白いネズミに触ろうとすると、大きな音が…。
これを何度も繰り返すと、「白いネズミ=大きな音」という概念ができてしまい、何でもなかった白いネズミが、怖いものとなり、逃げ回るようになりました。さらに、白いネズミが怖かったこの赤ちゃんは、白いうさぎや、白いひげなどに対しても恐怖を抱くようになっていきました。
これは、昔行われた心理学の実験の一つです。
恐怖というものは、ある1つのことがきっかけとなり、作られます。その後、それに似たものも恐怖の対象となっていってしまいかねないのです。関わり方一つで、相手の将来も変えてしまいかねないということを、常に意識しながら今後もより良い関わりを続けていきたいものですね。
文責:大橋奈緒子